教育業界ネットワーク

教育共感インタビュー

「社会に開かれた教育課程」の姿‐麹町中学校の挑戦‐

若江

2020年に学習指導要領が変わります。2006年PISA調査(学習到達度調査)では、読解力、数学的リテラシー、科学的リテラシーのすべてで順位が低下しており、メディアの報道などから危機的意識が高まり、教育現場で様々な取り組みがなされた結果、2015年の調査では科学的リテラシーは2位に順位を戻しています。PISA調査では、問題の半数近くが知識や技能を社会でどのように生かすことができるかを問うことから、知識提供型のこれまでの日本の学校教育と知識活用型のグローバル社会で求められる教育にギャップがあることがわかりました。
次期学習指導要領では、そのギャップを埋める手立てとして「社会に開かれた教育課程」を掲げています。自立した人間として、他者と協働しながら価値の創造に挑み、未来を切り開いていくために、どのように社会・世界と関わりよりよい人生を送るかという「学びの姿勢」が重視され、何を知っているか・何ができるかという、「知識・技能」を習得するだけでなく、知っていること・できることを使える「資質・能力」を、学校現場で育てることをめざします。

その手段として、主体的・対話的に学び、深い学びにつなげるアクティブ・ラーニングに注目が集まっています。また、企業や地域の力を借りて、実社会とつながりのあるテーマを学習の題材とし、専門家やテクノロジーなどもうまく活用しながら、子どもが資質・能力を発揮する機会を提供するのが「未来型の新しい学校」です。麹町中学校は、工藤校長の学校マネジメントにより、それを具現化しておられます。

麹町中に入るとその最新の学校施設に目を引かれますが、ハード面だけではなく、それ以上にソフト面の素晴らしさに驚かされます。着任後3年で多くの改革を実践され、学校教育目標、また重点育成能力を設定しておられますが、その経緯を教えてください。


工藤校長

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目標設定は企業でも一番大事だと思いますが、目標を設定において、手段を目的化してしまうケースが良くあると感じます。そんなときは目の前の下位目標が、最終目標を妨げていないかを考えてほしいですね。


若江

子どもたちにめざす生徒像を伝え、目標を達成するための核となるのが授業だと思うのですが、資質・能力育成型の授業に変えていくために、どのようにして先生方を育成、指導されるのでしょうか。


工藤校長

1年目は、生徒たちにとって快適な場を作るということを最重要課題として、取り組みました。

教員の言葉遣い、生徒同士のかかわり方、しかり方など、子どもたちにとって、学校がどのような場であるべきか、教員が安心できる大人であるためにどうするかを優先しました。

授業の変革は、これからの課題になります。

授業は上手でなくても良いと考えています。教え方は問題ではなく、学び方を教えられるかどうかが一番大事です。当初、このことを教員に理解してもらうことには苦労しましたが、何度も繰り返すことによって、意識改革が進んでいます。

また、赴任当初、教員は生徒を叱ってばかりいるように見えることも以上に気になりました。叱られた生徒が教員からどんなメッセージを受け取っているのか疑問を感じたのです。そこで、教員向けに叱り方研修会を開いたこともあります。服装やきまりなどを守ることよりも、先ず、命を大事にしない行為に対して厳しく叱ることができるよう先生方に伝えました。子どもたちには、命を大事にすることが何より大切だというメッセージを送ってほしいと伝えました。

こういったことを積み重ねながら、ベースとなる教育環境をつくっていくことが大切だと考えます。


若江

今、学校教育では、課題解決力を育成しなければならないと言われますが、そのためにはまず教員が思考停止せずに、課題に向き合うことが必要ですね。まさに「考える教員」を育てておられるのですね。


工藤校長

生活指導上の問題の一つを考えてみましょう。例えば生徒同士の喧嘩が起こったケースです。一般にこういったことが起こると、教員は加害者が被害者に謝らせて、解決しようとします。しかし、大切なことは、生徒自身が解決のための主体者になっているかです。ですから、教員は謝らせる指導ではなく、生徒自身が謝りたくなるように指導できるなることが大切です。教員にはそのための指導方法を自ら考えられるように助言しています。
子どもが自分のスイッチを押すまで待ってあげる、自分で決定を押すように仕向けることが重要です。


若江

考える教員への変容には、外部との連携による影響もあるのではないでしょうか。生徒に良い学びの機会を与えることは、言い換えれば、先生にとっても新しい学びである気づきのチャンスです。
文科省では、「学び続ける教員」の必要性を謳っていますが、先生方こそ社会とつながるのは大事なことだと思います。


工藤校長

閉ざされた現場にいる教員の価値観を変えるのに、一般の社会人の力は非常に大事です。

一般の社会の中のキラキラ光る人が教育現場に入ると、教員の価値観が揺れ動くのは事実です。外部の方には、授業の際「自分のメッセージ」を必ず入れてもらい、大人としての素敵さが滲み出るような話をして欲しいと伝えています。それが、生徒と教員の変化に繋がっていきます。

閉ざされた世界である教育現場が、社会を見据えた価値観を持てるようになります。


若江

テーマが世の中につながっていれば良いという単純なものではないですね。子どもたちにはどんな変化や影響がありますか。


工藤校長

影響は大きくは二つ上げられると思います。

一つ目は、生徒から「世の中捨てたものじゃない」「こんな生き方って良いな」という声が聞こえてきたことです。生徒たちの意識が世の中に出てみたいと思う方向に動き出しています。

二つ目は、対立軸がなくなったことです。社会への不安や不満は、学校や先生への不満として表現され、反発することにエネルギーをかけがちですが、世の中の素敵なものに触れれば、子どもたちはちっぽけな不安や不満に興味を持たなくなります。


若江

それはすごいことですね。最初は校長先生の意図を理解するのに苦労されたであろう先生方も、いろいろな気づきと経験を積まれ、最近では先生方からもアイディアが出てくるようになりましたか。


工藤校長

どうやったら仕事が改善できるようになるか、文章保管や打ち合わせ方法など、さまざまな学校運営上の課題を教員自らが考えてくれるようになりました。教員一人一人が主体者意識を持ち始めたからだと思います。


若江

教育現場の変革のためには、コンソーシアムメンバー企業を中心に、企業も多くの学校に支援してくださると思いますが、私たち関わる企業側もアクティブ・ラーナーでなければなりませんね。今、学校がどのような状態で、どのようなことをすると、双方に意味があるか、企業が気をつけなければいけない点について教えていただけますか。


工藤校長

様々な企業が支援をしてくれていますが、私から二つ提案したいと思います。

一つは、企業が持っているスキルやノウハウを、学びに活かせるようにして欲しい。

目的と、他者意識を明確にすれば、企業が持っているノウハウがそのまま学びにつながります。

二つ目は、継続的支援をしていただけるよう、企業にとってもWIN-WINになるようなしかけを持ってほしいと思います。例えば、学校で教える経験が企業の社員研修につながるということもあるかと思います。本校の「スキルアップ研修」はまさにそのような場になっています。


若江

互いにとって、学びの機会にすることが大切なのですね。本日は貴重なお話ありがとうございました。


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※本対談は、2017年3月9日(木)に開催された「教育CSRフォーラム2017」(主催:キャリア教育プログラム開発推進コンソーシアム)の対談内容に基づき構成されています。


千代田区立麹町中学校 校長
工藤 勇一(くどう ゆういち)氏