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企業コラム

人材戦略と社会貢献の両立の最前線―給付型奨学金制度と次世代育成

優秀な人材の獲得は日本の企業にとって事業領域を超えた共通の課題です。次世代に選ばれる企業であるためには、社会貢献の取組や社会に発信するメッセージが評価される時代。奨学金を通じた次世代支援は、経済的な困難を抱えながらも学ぶ意欲の高い学生を「未来をいっしょにつくる仲間」として企業が支える戦略的投資といえます。

目次

1給付型奨学金の現状

現在、文部科学省が所管するJASSO(日本学生支援機構)*を中心に、国家的に幅広い給付型奨学金事業が展開されています。実態としては2022年度、大学生の約55%、つまり約半数の学生が、何らかの奨学金制度を利用しています。そのうち給付型は9%弱と少数で、まだ一般的な認知度も低く、今後普及が推進されていく見込みです。 過去日本では奨学金といえば「貸与型」でした。大学卒業時に平均300万を超える返済負担を抱え、その返済期間は平均15年です*。若年層の負債は、結婚・出産・住宅取得など将来設計に深刻な影響を与え、国家レベルの負のスパイラルにつながります。こうした背景を受け、政府は2020年以降、返済不要の「給付型奨学金」の拡充に舵を切りました。「給付型奨学金」は、日本の若年層にとって、キャリアのセーフティネットとして今後ますます重要となるでしょう。
【参考】高等教育の修学支援新制度

データ出典元:独立行政法人 日本学生線機構(JASSO)、Webサイトより

2なぜ、企業が奨学金に関わるべきか

「給付型奨学金」の実施母体は現在その多くが教育機関・行政機関ですが、今後民間企業による支援は今後拡充に向かっていくでしょう。現在の傾向は以下の通りです。

民間による給付型奨学金の目的と傾向(弊社調べ)
目的 金額帯(目安・年間) 主な支援内容
1 高度人材育成 300〜5,000万円 海外留学、研究支援、卓越した学力層向け等。返済不要・長期支援が一般的。将来のリーダーや研究者層対象、選抜基準は厳しい。
2 専門職人材育成 〜200万円 IT・美容・医療・整備士など、職業スキルを磨く専門学校や短大生向けの支援が中心。
3 生活支援 ~100万 家賃補助や一人暮らし初期費用の支援、物件貸与・家電提供といった現物支給型も。
4 プロモーション ~10万 学生向けキャンペーンやインターン参加条件付きで短期的な接点づくりが主眼。

「給付型奨学金」を企業の戦略的投資の視点でとらえると、特に上記の1.2の長期的な支援は、SDGs(目標4・10)への貢献はもちろんのこと、企業ブランディングや採用力強化に直結します。自社の事業戦略に基づき、対象者や対象学校、分野を限定することで、自社の事業ニーズに必要な人材を選抜することが可能になります。自社が重要視する社会課題をけん引する人材を育成する、という視点では、企業のESG経営の施策という見せ方も可能です。

3「給付型奨学金」を通じた次世代・地域との「協働」

専門分野のみならず、支援対象地域を限定するか否かも重要な戦略です。たとえば、自社の事業地域の大学に在籍する学生やその地域出身の学生を対象とすることで「地域の未来を担う若者」への支援、という目的が行政とも共有されやすく、産官学連携の推進が期待されます。「地域限定・条件付き給付型奨学金」制度設計においては、地元企業・事業所のある企業と、自治体、大学が共同でファンドを創設し、人口流出等の課題に対する具体的投資策が実現しているケースもあります。 これまで、企業の奨学金は「貸与型」=「特定の企業への就職による返済」と思われがちでしたが、地域のニーズも踏まえて設計された「地域限定・条件付き給付型奨学金」は、地方創生や地域活性化のための「地域との新たなコラボレーション」の一つになりうるでしょう。

データ出典元:経済産業省、イノベーション創出のための 学びと社会連携推進に関する事例集より
おわりに
多くの企業がすでに、従業員の奨学金を代わりに変換する「代理返還」の仕組みを利用し、採用した人材の定着や課税優遇などにつなげていますが、この動きは「守り」の支援です。一方で、企業独自の「給付型奨学金」は、自社の事業分野に直結した次世代育成と地域貢献のための、未来投資的な「攻め」の取組といえます。
若者の未来とともに、自社の可能性を広げる仕組みとして、検討してみてはいかがでしょうか?